【実録!】賃貸物件立ち退き交渉記録

私は築古アパートで2度の立ち退きを経験しました。
どちらも立退料を受け取り引っ越しましたが、立退料の金額としては2度目の時は、1度目の倍以上と大幅に増額できました。
その理由と考えられることを、実際の交渉過程とともに詳しく解説します。

立ち退きを求める通知が届いて不安な方、これから交渉に臨む方に向けて、知っておくべき法的な前提知識と経験から得られた交渉Tipsをまとめました。

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記事の背景

勤務先が都市部だったため、周辺の家賃は高く、少しでも抑えるために築年数は古いがリノベーション済みで内装がきれいな物件を選んで住んでいました。
そうした物件に住んでいたことから、過去に2度、建物の取り壊しに伴う立ち退きを求められた経験があります。

立ち退きの際には引越しに必要な費用などとして立退料を受け取ることになりますが、その金額には明確なルールがあるわけではなく、オーナー側との交渉で決まります。
立ち退きを求める通知は突然届くこともあり、当時は対応に困りました。

この記事では、2度の立ち退き交渉で実際にどの程度の費用を得られたのか、またその過程で学んだことをまとめています。

大前提として賃借人(借りている側)の立場は非常に強い

立ち退きの通知が届くと、期限までに必ず出なければならないと思いがちですが、実際はそうではありません。

借地借家法による保護

賃借人は「借地借家法」によってしっかり保護されており、賃貸人(貸している側)の側から見ると、借りている人を立ち退かせるハードルはかなり高いです。

判例を調べてみると、賃貸人が気の毒になるほど強固に賃借人の立場が守られています。

立ち退きを求めるには「正当な理由」が必要

賃貸人が立ち退きを求めるには「正当な理由」が必要です。

しかも「正当な理由」があるだけでは立ち退かせることはできず、あわせて金銭的な補填(立退料)を求められるケースがほとんどです。
場合によっては「正当な理由」自体が認められないこともあります。

契約期間の途中だけでなく、契約更新の拒否についても同様に「正当な理由」が必要です。
更新を拒否された場合でも、交渉がまとまっていない間は家賃をしっかり払いましょう。

借りている側に問題があるとされないためです。

「正当な理由」の基準は想像以上に高い

この基準は、賃借人が想像するよりはるかに高いものです。

たとえば「建物の老朽化により倒壊の危険性がある」と書かれていると、筋は通っていて正当な理由だと思ってしまうのですが、生活に問題ないレベルであれば、立退料なしでの立ち退きが認められる可能性はかなり低いです。
調べた限りそういった判例を見つけることはできませんでした。

過去の判例を調べるとわかりますが、最悪裁判まで進んだとしても、かなりの額の立退料の支払いが命じられています。
そのため、金額交渉は強気で臨んだほうがよいと思っています。

もちろん、家賃の滞納など賃借人側に問題がある場合は別です。

2度の立ち退き交渉の結果まとめ

まず、2度の交渉で得られた結果を先にお伝えします。

どちらも敷金は全額返金されており、以下の金額には含んでいません。

1度目:家賃10ヶ月分相当

  • 現金:9ヶ月分
  • その他条件:引越し費用のオーナー負担(家賃1ヶ月分相当と想定)

2度目:家賃25.5ヶ月分相当+α

  • 現金:21.5ヶ月分
  • 家賃減免:立ち退きまでの4ヶ月分
  • その他条件:立ち退き期限の2ヶ月延伸、残置物の引き取り処分

1度目の交渉が終わった時点では結構な金額だと感じていましたが、後から振り返ると後悔する点もありました。
その経験を活かしたことが、2度目の結果につながったと思います。

【実録】1度目の立ち退き交渉(築60年・木造アパート)

立ち退き期限の3ヶ月前に通知を受け取りました。
2年ごとの賃貸借契約を結んでおり、次の更新まで1年以上あったため、引越しは全く考えておらず非常に驚きました。

理由は老朽化に伴う建物の解体とのことでしたが、実際には住むのに問題ないレベルだったので、今考えると理由としては少し弱かったと思います。

立ち退きに応じなければならないのかどうかも含め、まずは調べることから始めました。

目標金額の設定

交渉に備えて目標金額を計算したのですが、1回目で一番失敗したと思っているのがこの部分です。

当時の私は金額に根拠が必要だと思い込んでおり、引越しに必要な費用を積み上げる形で目標金額を作ってしまいました。

積み上げた内訳は以下のとおりです。

引越しに最低限かかる費用(合計4.5ヶ月分)

  • 礼金・仲介手数料(それぞれ1ヶ月分+バッファで合計3ヶ月分)
  • 引越し費用(通勤先は変わらないので近距離を想定して1.5ヶ月分)

引越し先に持ち越せない費用(合計1ヶ月分)

  • 入居時に支払ったセキュリティ性能の高い鍵への交換費用
  • インターネット回線の引き込み工事費用(キャッシュバックがあったが、引越し先で引き直すと実費になるため)

その他(合計3.5ヶ月分)

  • 賃貸借契約の残存期間の日割り分(0.5ヶ月分)
  • 通知期間の不足分(一般的には6ヶ月〜1年前のところ3ヶ月前だったため、その分の補填として3ヶ月分)

これらの合計で9ヶ月分を希望金額としました。

交渉の経過

交渉相手はオーナー本人ではなく、仲介業者の担当者で、近所のファミレスで対面で行いました。
残りの細かい話はメールで行った形です。

最初に提示された条件

引越し費用は賃貸人側で手配・支払い、礼金・仲介手数料は賃借人が立て替えた後に実費精算、という内容でした。
さすがにこれはないと思いましたが、賃借人側の立場の強さを知らなければこの条件で合意してしまう人もいて、あわよくばということで最低限を提示してきたのだと思います。

あわせて同等物件の紹介もあるとのことでしたが、全く役に立ちませんでした。
立ち退きを求められるような物件は周辺で最も安い家賃帯なので見つからなかったのかもしれませんが、自分で探した方がはるかに良い物件を見つけられました。

こちらが提示した条件に少し上積みされて合意

その条件では合意できないことを伝え、こちらの希望金額を内訳付きで提示しました。
内容を細かく聞かれた上でオーナーに相談すると持ち帰りに。正直メールで十分な内容でした。

よくよく考えると、この手の交渉は下手をすると非弁行為になりかねません。
条件のヒアリングと交渉の境目はかなり曖昧ですが、オーナーが直接出てこない限りその場で条件が正式に決まることはないので、賃借人としては対面で行うメリットはないと思います。

残りの交渉はメールで行いました。
こちらが提示した金額をそのまま現金で支払い、さらに引越し業者の手配と支払いもオーナー側で負担するという内容で合意が取れたとの連絡が来ました。

提示した金額内で引越し費用も賄うつもりだったので、こちらの条件にさらに上積みされた形です。

当時はなぜか良い条件になっていたので少し申し訳なく思っていましたが、今考えると、向こうが想定していた金額よりかなり安かったのだと思います。
条件を少し積み増してでも早々に合意書を作成してしまいたかったのでしょう。

明け渡し合意書の作成

条件に合意した後、正式な明け渡し合意書を作成しました。
先方から文面が送られてくるので、問題なければ署名・押印します。

内容には立ち退き費用の金額と支払い期限、金銭以外の条件、部屋の明け渡し期限、どちらかが合意を守らなかった場合の対応などが記載されています。

事前に合意した条件との相違がないか、違反時の対応に一方的に不利な条項がないかを確認しましょう。

今回は仲介業者が近所に店舗を構えていたので、直接足を運んで押印しました。
立退料は合意書押印後に半額、立ち退き完了後に残りの半額という支払いタイミングでした。

【実録】2回目の立ち退き交渉(築70年・木造アパート)

前回の引越しから数年後、立ち退き期限の5ヶ月前に通知を受け取りました。2年ごとの契約の途中でしたが、前回の経験があったのであまり慌てませんでした。

前回との違いは、コロナ後で在宅勤務が基本になっており、次の更新時に引越しを検討していたことです。正直、渡りに船という気持ちで、とにかく良い条件を引き出そうと考えていました。

理由は前回と同様、老朽化に伴う建物の解体で、実際には住むのに問題ないレベルだったので、理由としてはやはり少し弱いと感じました。

以前の反省を踏まえた目標金額の設定

前回の反省を踏まえ、費用の積み上げではなく「この程度もらえたら立ち退いてもいい」という金額ありきで考えました。

引越しに最低限かかる費用(合計4.5ヶ月分)

この部分は前回と同じです。

  • 礼金・仲介手数料(それぞれ1ヶ月分+バッファで合計3ヶ月分)
  • 引越し費用(1.5ヶ月分)

キャッシュアウト分は実費精算ではなく定額の現金としました。
この時点で礼金・仲介手数料のかからないUR賃貸を検討しており、その分が浮くなら現金で受け取った方が有利だったからです。

立ち退いてもいいと思える金額を適当に(24ヶ月分)

賃貸借契約の期間は一般的に2年間なので、その間の家賃がすべて補填されるのならば、立ち退いてもいいかなと考えました。

  • 引越し後一回目の契約更新までの家賃(24ヶ月分)

これらの合計で28.5ヶ月を希望金額としました。

交渉の前提条件の提示

前回と同様、交渉相手はオーナー本人ではなく仲介業者の担当者で、交渉は全てメールで行いました

今回はまず、具体的な金額の交渉に入る前に、キャッシュアウトに関わらない部分の条件を前提条件として提示しました。
前回の経験から、賃借人の立場の強さを考えると、ある程度強気に出ても問題ないと考えていたためです。

提示した前提条件は3つです。

  • 立退料の明け渡し前一括前払い
    合意書作成後、速やかに全額を支払うこと。明け渡し後に支払いがされないリスクを防ぐためです。
  • 合意書作成後4ヶ月を立ち退き期限とすること
    引越し先探しは合意後に行うつもりなので、交渉をじっくり進められるよう、合意の成立から十分な時間を確保したいと考えました。
  • 残置物の引き取り処分
    屋外の洗濯機置き場で傷みが激しかった洗濯機や、引越し先で使い回しにくい家具があり、大型家電・家具の処分は手間もお金もかかるため追加しました。

立ち退き期限を合意後4ヶ月とすることは少し渋られました。
アパートは合計4戸で、建物全体を取り壊す話だったため、他の住人にも同じ期限で通知していたのだと思います。
一戸でも遅れると解体工事全体に影響するためでしょう。

ただ、この前提をすべて受け入れてもらえなければ交渉も立ち退きも拒否すると伝えたところ、最終的には全て飲んでもらえました。
ここで賃借人の立場が想像以上に強いことを実感しました。

この過程で、過去に立ち退き経験があることや判例もある程度知っている旨も話の流れで伝えています。
全くの素人だと思われて足元を見られている感じがなかったのは、この辺りも関係しているかもしれません。

立退料の金額交渉

前提条件が決まった後、具体的な金額交渉に入りました。この時点で通知から1ヶ月が経過しています。

ここではこちらから具体的な金額を提示せず、賃貸人側に提示してもらいました。
いろいろ調べてはいましたが、仲介業者はこの手の問題のプロなので、向こうから出た金額をたたき台にした方が良い条件を引き出せると考えたためです。

先方の初回提示:11.5ヶ月分(+早期明け渡しで最大3ヶ月上積み)

正直、前回の交渉で合意した金額がかなり低かったのだと実感しました。

同等物件の紹介もあるとのことで並行してお願いしましたが、やはり同等条件ではなく、一部条件に合うものを手当たり次第送ってくる形で役には立ちませんでした。

メールの文面からまだ押せそうだと感じたことに加え、同等家賃の立ち退き訴訟の判例で命じられた金額とは大きな開きがあったため、突っぱねました。
具体的な金額は出さず、こちらの想定とは差がありすぎるので細かい詰めに入れる段階ではない、オーナーともう一度相談して再提示してほしいと伝えました。

細かい金額の根拠も説明されましたが、「こちらとしては内訳ではなく総額で判断している、今の総額では内訳によらず立ち退きに応じるつもりはない」と伝えて再提示をお願いしました。

先方の再提示:21.5ヶ月分

早期明け渡しに対する加算はなくなりましたが、総額がいきなり2倍近くに上がり、正直驚きました。
立ち退き交渉の金額に根拠は不要で、とりあえず強気で押すのが正解だと実感した瞬間です。

最後のひと押しで現金以外の条件を追加

金額としては合意してもよいレベルでしたが、もう少し押せそうだったので、現金以外の部分で条件を積み増しました。
具体的には合意後の家賃(最大4ヶ月分)の免除です。こちらから支払う金額が減れば現金の上積みと結果は同じです。

先方には「まだ少し立ち退きに同意できる総額に足りないので、現金以外の項目で埋められる条件をつけます。これを飲んでもらえれば合意します」と伝えました。

この条件を加えると合計25.5ヶ月分となり、調べた判例の金額よりは少し下回るものの、十分な水準に達したため、この条件で合意としました。

明け渡し合意書の作成

合意後、正式な明け渡し合意書を作成しました。
今回の仲介業者は近所に店舗がなかったため郵送で行いました。

文面は全額前払いとした影響か、合意を破って立ち退かなかった場合の罰則が前回より詳細化されていましたが、理不尽なほど厳しいものではなく、破るつもりもなかったのでそのまま署名・押印しました。

割と満足のいく結果、少なくとも前回のような後悔が残らない条件でまとめられたと思っています。

【注意!】立退料は一時所得

受け取った立退料から、引っ越しにかかった金額を経費として差し引いた後の金額によっては、一時所得として申告が必要です。

2度の経験から得た立ち退き交渉のTips

借りている側の立場が非常に強いことを前提に考える

本当に気の毒なくらい借りている側の立場は強いです。

昔からの地主さんだとこの点を理解されていないこともあり、足元を見た条件を出されたら立ち退きに合意しないと突っぱねると、間に入った仲介業者がオーナーを説得してくれたりもします。
さすがに業者は判例等も含めてその辺りを理解している様子でした。

同じ家賃帯の立ち退き訴訟の判例を調べておく

調べるまでは、訴訟で負けると最低限の条件で追い出されるものだと思っていましたが、実際は全く違いました。

立ち退きはしなければならなくなっても、引越しに必要な金額の数倍と思われる支払いが命じられている判例が大半です。

裁判まで行っても相当な額の立ち退き費用が出ると知っていれば、余裕を持って対応できます。

交渉は対面ではなくメールで行う

オーナーではなく業者が間に入っている場合、対面での交渉は不利になりがちです。

理由の1つ目は、こちら(賃借人)は本人なのでその場で決められますが、あちら(賃貸人側)はオーナーの代理でしかなく決定権がないという非対称な構造になること。

言質を取っても「オーナーから許可が出ませんでした」と覆される可能性があります。

2つ目は知識・経験の差です。普通は立ち退き交渉など滅多に経験しませんが、業者は日常業務として行っています。

対面で即答を求められると押し切られがちなので、証跡が残り時間をかけて考えられるメールでの交渉をおすすめします。
対面になった場合は聞くだけ聞いて、何も決めず持ち帰ることも選択肢に入れておきましょう。

通知期間の不足を交渉材料にする

立ち退きを求める通知は一般的に期限の6ヶ月〜1年前に届くのが通常ですが、過去2回ともそれ以下でした。

条件を引き出すためのツッコミどころとしてわかりやすいポイントなので活用しましょう。

「同等の物件を紹介します」は当てにしない

2度とも代替物件の提案がありましたが、ほぼ同等条件の物件は1件もありませんでした。
自分で探した方がはるかに効率的です。

老朽化による解体が理由の立ち退きでは、家賃自体が周辺エリアでかなり安く、かつリノベーションで内部がきれいな物件を選んでいたため、同条件の空き物件がそもそも存在しなかったのだと思います。
合意から明け渡しまでの期限はしっかり確保して、物件探しに困らないようにしましょう。

引越し業者は自分で選べるようにする

1度目はオーナー側の手配でしたが、聞いたこともない地場の小さな会社で、契約をオーナー側でしているため運送規約の控えが渡されることもなく、荷物に対する保険の対象・条件の説明も一切ありませんでした。

実際に破損はなかったので問題になりませんでしたが、もし破損があれば確実にもめることになったと思います。

立退料は明け渡し前に受け取る

少なくとも物件の契約や引越しなど、明け渡し前に必要なキャッシュアウト分は事前に受け取れる条件にすることをおすすめします。
実費精算の場合でも、先に一定額を受け取り、明け渡し後に実際の金額との差額を清算する方法も考えられます。

賃貸人側としては立ち退いてもらわないと困るので、明け渡し前の支払いが条件であれば履行されないことはまずないでしょう。
もし支払われなければ明け渡しをしなければよいだけです。

しかし支払いが明け渡し後だと、部屋はすでに引き渡されており賃貸人の目的は達成されているため、故意に支払われなかった場合に履行させるのはかなり大変です。

金額だけでなく支払い時期も条件に含めましょう。

まとめ

立ち退き交渉は、通知が届いた瞬間は不安になるものですが、借地借家法によって賃借人の立場は非常に強く守られています。

重要なポイントを振り返ります。

  • 賃借人は法律で強く保護されている。
    立ち退きの通知が来ても、すぐに応じる必要はない
  • 立退料の金額に「相場」や「正解」はない。
    費用の積み上げではなく、納得できる金額ありきで交渉に臨む方が良い結果になる
  • 判例を調べておくことで、交渉に余裕が生まれる。
    裁判になっても相当な額の支払いが命じられるケースが多い
  • 交渉はメールで行い、前提条件を先に固め、金額は相手に先に出させる。
    相手はプロでこちらは素人ですのでその前提で
  • 金額だけでなく、支払い時期・期限・残置物処分など金銭以外の条件も重要。
    トータルで有利な合意を目指しましょう
  • 立退料は一時所得
    金額によっては所得としての申告が必要です

1度目は家賃10ヶ月分、2度目は25.5ヶ月分。
同じ人間が交渉しても、交渉次第でここまで差が出ます。

この記事が、立ち退き交渉に臨む方の参考になれば幸いです。